契約書の構成 タイトルから、条文、日付、当事者、別紙まで簡単に分かりやすく解説
契約交渉、契約書の作成、契約書の審査・修正などの契約法務において基礎となるのが、契約書を理解することです。契約書を理解するためには、まず契約書全体の構成を押さえておくとよいでしょう。
ここでは、契約書の構成を、①タイトル(表題・題名)、②前書き(前文)、③条文の見出し、④条・項・号、⑤後書き(後文・末文)、⑥日付、⑦当事者欄、⑧別紙・附属書類という8つのポイントから解説しています。
①契約書のタイトル(表題・題名)
「覚書」も契約書になる
契約書のタイトルには、「契約書」以外にも、「協定書」、「合意書」、「念書」、「覚書」など様々なものがあります。このようなタイトルの違いによって、契約書としての法的な効力が変わるものではありません。例えば、「覚書」というタイトルであっても、契約を成立させる合意を内容とするものであれば、契約書としての効力が生じますので、注意しましょう。
適切なタイトルをつける
もっとも、契約書のタイトルは、何でもよいというものではありません。例えば、売買契約に「請負契約書」のようなタイトルをつけてしまうと、混乱を招きますし、契約書の本文の解釈に影響を与えてしまうおそれもあります。したがって、契約書のタイトルは、できる限り契約内容を正確に反映した適切なものにする必要があります。
タイトルは最後につける
契約書によっては、複数の契約が合わさっていたり、内容が複雑であったりといった理由から、すぐにタイトルをつけられないものもあります。このような場合、タイトルをつける前に、契約書の本文の内容を十分理解する必要がありますので、契約書の本文の作成がすべて終わってから、最後にタイトルをつけるとよいでしょう。
②前文(前書き)
当事者の略称
前文の中で記載されることが多いのが、当事者の略称です。定義の仕方としては、「株式会社○○を「甲」とし、株式会社××を「乙」として、」のように通常の文章で記載する方法と、「株式会社○○(以下、「甲」という)と、株式会社××(以下、「乙」という)は、」のように()を使用して記載する方法があります。
略称の付け方
当事者の略称としては、上記のように「甲」「乙」を使うことが一般的です。また、契約の当事者が3者以上となる場合は、「丙」「丁」を使うこともあります。ただし、これらの記号を使用する際は、契約書の途中から「甲」と「乙」が逆になってしまうといったミスが起こりやすいため、注意が必要です。このようなミスを避けるために、売買契約では「売り主」と「買い主」、賃貸借契約では「貸し主」と「借り主」などの略称を使うことも考えられます。
契約の範囲と性質
また、前文の中では、「甲乙間の商品の取引について、次のとおり売買基本契約を定める。」というように、契約の範囲や性質を定めることがあります。これらは、契約の本質的な部分であり、極めて重要です。契約書本文の第1条や第2条の中で、別途定めておく方法もあります。
③条文の見出し
見出しをつける意味
前文の後には、いよいよ契約書の本文となります。契約書の本文は、条文の形で記載されます。条文には、条文番号と見出しをつけるのが一般的です。見出しは、条文番号の上、又は横に書かれます。見出しをつけることにより、条文の中身を読まなくても大体の内容が把握できるようになり、契約書を作成したり、後で内容を確認する際には非常に便利です。また、ある条文で別の条文を引用する場合にも、条文番号とともに見出しがあると、分かりやすくなるというメリットがあります。
見出しの法的効力
見出しについて問題になるのが、見出しが条文の解釈に影響を与えたり、特別な法的効力を持つことはないか、ということです。一般的には、見出しは、参照や便宜のために設けられるものであり、特別な法的意味はないと考えられます。念のため、見出しに法的意味がないことを明確にしたい場合には、契約書の中で、その旨を定めておくとよいでしょう。。
法律の条文の見出し
ここで、契約書をはなれ、参考までに、法律の条文の見出しについてもふれておきたいと思います。会社法のように最近新しく制定された法律や、民法のように全面改正された法律には、条文見出しが()でつけられています。一方、かつては、条文に見出しをつけていなかったため、憲法や刑事訴訟法など古くからある法律の条文には見出しはありません。なお、六法やなどの法令集では、古くからある法律の条文にも見出しがつけられていることがありますが、これは出版社が便宜のためつけているものです。
④条・項・号
条
契約書の本文は、「条」「項」「号」という形式にしたがって記載します。まず、「条」は、条文の最も大きな単位です。「条」には、「第1条」「第2条」のように番号を振ります。
項
「項」は、「条」の内容をさらに分けるときに使います。「項」には、数字で「1」「2」又は「①」「②」のように番号を振りますが、第1項については番号が省略されることも多くなっています。
号
「号」は、「条」や「項」の中で、事項や例示を列挙するときに使います。「号」に は、「号」には、漢数字で「一」「二」のように番号を振ったり、「①」「②」が使 われることもあります。
本文と但し書き
また、「条」や「項」の中では、「~。ただし、~。」のように、本文と但し書きに分けて記載する形式がよく使われます。本文には原則が、但し書きではその例外が記載されます。また、本文を第1項とし、但し書きを第2項とすることもあります。
⑤後書き(後文・末文)
後書き(後文・末文)とは
契約書の後書きは、後文や末文と呼ばれることもあり、契約書の本文(条項部分)の最後に記載されます。後書きには、契約書の本文が終了したことを示すとともに、契約書を何通作成したのかを明らかにする役割があります。
契約書の作成部数
契約書の作成部数は、2通とすることが多く、両当事者が署名捺印したものを1通ずつ保管します。もっとも、三者間の契約や保証人がある契約では、作成部数が3通となることもあります。また、念書や誓約書のように、一方の当事者が署名捺印したものを1通だけ作成し、もう一方の当事者に差し入れることもあります。
⑥日付
日付をいつにするか
契約書には、日付を記載する必要があります。この日付をいつにするかについては、契約の締結日や契約書の作成日などが考えられますが、一般的には、契約書に当事者全員が記名捺印した日とされることが多いようです。日付は、契約書の末尾に、元号又は西暦で年月日を記載するのが通常です。
日付と効力発生日
契約の効力発生日について、契約書の中に別の定めがない場合、この契約書の末尾の日付が、効力発生日となる場合もあります。契約の効力発生日を明確にしたい場合や、記名捺印の日とは異なる日にしたい場合には、定義条項や有効期間の条項の中で、別途規定を設ける方法があります。
日付は正確に記載する
実務では、契約書の締結前に、または契約書の作成と並行して、契約内容の業務を開始する場合も多く見られます。中には、すべての業務が完了した後に契約書を締結し、日付をさかのぼらせるケースもあります。しかし、事実と契約書の記載が異なることは、トラブル予防の観点からは問題があります。契約書の作成や審査、社内手続きなどが間に合わない場合は、仮契約書や覚書を活用することも検討するとよいでしょう。
また、日付には、複数の契約書や書面の間の先後関係を明らかにする役割もあります。特に、最初の契約書の締結後に、別の契約書や書面により契約内容の修正・変更が行われる場合、先後関係が不明になってしまうと、大きな問題となります。このような観点からも、契約書の日付は正確に記入するようにしましょう。
⑦当事者欄
肩書き
法人が当事者となる契約において問題となるのが、誰が契約を締結するかです。法人が当事者となる契約では、契約を締結する権限を持っている者との間で契約を締結する必要があります。株式会社では、会社を代表する権限を有する代表取締役が契約の締結者となることが多いですが、契約の内容によっては部長などが契約の締結者となる場合もあります。
氏名の記載と捺印
肩書きの次には、氏名の記載と捺印を行います。法律上は、署名と、記名+押印が同じ効力を有するとされます。もっとも、紛争の防止の観点からは、可能な限り、氏名の記載は署名によって行い、捺印には、実印又は丸印を使用するようにしましょう。
⑧別紙・附属書類
契約書の分かりやすさ
契約書には、別紙や附属書類を添付する場合があります。その理由の一つは、契約書の分かりやすさです。物件や当事者の目録、数字など、あまり細かいことを契約書の本文の中に盛り込んでしまうと、バランスを失するとともに、契約書が読みにくいものになってしまいます。そのため、契約書を分かりやすくするために、別紙・附属書類が使われるのです。
契約書の効率的な管理
もう一つの理由は、契約書の効率的な管理です。多数の取引先との間で同種の契約書を締結する際、取引の基本的な部分は共通であり、一部の条件のみが取引先ごとに異なる場合があります。このような場合、取引先ごとに契約書の本文を変更することは煩雑である上に、修正漏れなどが起こる原因にもなります。そのため、契約書の本文は定型的なものを用いた上で、取引先ごとに異なる条件は別紙で定めることが便利です。
別紙・附属書類の注意点
別紙や附属書類を契約書に添付する場合、間違った書類を添付してしまったり、 添付した書類が不正に差し替えられてしまったりするおそれがあります。これらを防止するために、契約書の本文と別紙には、割り印を押すようにします。
また、契約書の本文で別紙や附属書類に言及する際に、「別紙のとおり定めるものとする」とだけしてしまうと、どの別紙のことを指すのか不明確であり、トラブルの原因となります。そのため、日付や番号などで、別紙をできるだけ特定するようにしましょう。
まとめ
以上の①タイトル(表題・題名)、②前書き(前文)、③条文の見出し、④条・項・号、⑤後書き(後文・末文)、⑥日付、⑦当事者欄、⑧別紙・附属書類という8つのポイントを押さえることで、契約書の構成を体系的に理解することができます。契約書の構成を正しく理解した上で、契約交渉、契約書の作成、契約書の審査・修正などの契約法務に活かせるようにしましょう。
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